駅の「コンコース」の用語定義

「コンコース」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。

一般的には駅や空港など公共性の高い建物において、ただ通り抜けるだけの通路よりは広く、人が滞留できる空間をイメージすることが多いと思います。しかし実際の現場を見ると、コンコースとそうでない空間の境界が曖昧であったり、改札内と改札外を両方コンコースと呼んでいいのかという疑問が湧いてきたりするなど、「ここはコンコースだが、こっちはそうではない」とはっきり区別することが困難なケースが多々あります。

建物の構造は千差万別で、用語定義も法律やJISのように「正」とされるものが存在しないため、すべてを厳密に区分することは困難ですが、用語の生い立ちを知ることである程度の判断材料にはなり得ます。

  1. 「広辞苑」における「コンコース」
  2. 「鉄道技術用語辞典」における「コンコース」
  3. 「鉄道辞典」における「コンコース」
  4. 実際の鉄道事業者での使い分け

「広辞苑」における「コンコース」

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まずは一般的な辞書の代表例として、「広辞苑」を見てみましょう。

公園などの中央広場。駅や空港の建物の中央にある大通路。

広辞苑(第七版)

なるほど、分かったようで分からないような。とりあえず確実なことは、「コンコース」もあくまで「通路」の一員であるということですね。すなわち、待合室のような独立した部屋は「コンコース」とは呼べないということになります。

「鉄道技術用語辞典」における「コンコース」

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もう少し詳しい情報が欲しいので、鉄道関係の専門辞書を引いてみます。鉄道技術用語辞典(yougo.rtri.or.jp) では次のように書かれています。

駅本屋内の流動施設で,駅本屋出入口からホームに至るまでに旅客・駅利用者が通る主要な通路のこと.旅客流動のための通路としての機能のほかに,旅行準備や待合せを行う滞留スペースとしての機能をもつ.また,出入口から改札柵までを柵(ラチ)外コンコース,改札柵からホームまでを柵(ラチ)内コンコースというように区別する.

鉄道技術用語辞典(第3版)「コンコース[駅の]」

ここでは改札内外のいずれも「コンコース」と呼んで差し支えないことが分かります。

一方、Wikipediaでは鉄道の駅では一般的に改札外の区域である。(Wikipedia) と書かれているなど、いくつかの辞典では改札外を指すのが一般的という記述も見かけます。これは一体どういうことでしょうか。

「鉄道辞典」における「コンコース」

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1958(昭和33)年に国鉄が発行した「鉄道辞典」では用語の生い立ちも含めて詳しい解説がされています。

2013(平成25)年に発行された復刻版も含めていくつかの図書館にも所蔵されていますが、ありがたいことにデジタル復刻されたものがインターネットで公開されている(transport.or.jp) ので、図書館に行かずとも見ることができます。当該ページ(transport.or.jp) から注目したい点を抜粋しましょう。

  • 正しくはコンコースには passenger concourse と train concourse とがあり,頭端駅で改集札柵を堺に駅本屋側とプラット・ホーム側を区別する
  • ただコンコースといえば改集札柵より内のいわば改集札広間をいう[1]
  • 本式のコンコースは,わが国では上野駅にある鉄骨のものだけ
  • 最近はコンコースという言葉が単なる乗車広場や降車広場と混同して用いられている
  • 列車回数が増すと共に駅は滞留のスペースとしてよりも,むしろ流動のスペースとして考えられるようになった
  • かつて建築的にはコンコースは広間に近づいたが,いまや機能的には広間はコンコースに近づいた

このような記述を見ると、本来の意味の「コンコース」と、現在一般的に連想される「コンコース」は、建築的な構造も機能面もまるで異なることが分かります。

今でも列車本数の少ない地方のターミナルで列車別改札が行われている駅では、列車に乗る際の手順はおおよそ次のようになっています。

  1. 出札口できっぷを購入
  2. 改札外コンコース(passenger concourse)のベンチ、あるいは待合室で待機
  3. 乗車する列車の改札が開いたら、改札口で駅員にきっぷを切ってもらう
  4. 改札内コンコース(train concourse)を経由してプラットホームへ移動

例えば富山地方鉄道の電鉄富山駅(www.chitetsu.co.jp) はこれに近い構造・運用を維持していますね。

実際の鉄道事業者での使い分け

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ここまで辞書を引きつつ用語の定義を探ってきましたが、では本来の意味合いはともかく、平成も終わろうとしている2018年現在において、実際の使い方はどうなっているのでしょうか。

鉄道事業者がWebサイトで公開している駅構内図を見てみました。全国すべてを調べるのは大変なので、関東圏のJRと大手私鉄の代表駅だけですが。

JR東日本

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改札内コンコースは「1階コンコース(改札内)」などと書かれていますが、改札外コンコースは何の名称もありません。ただし、上野駅(www.jreast.co.jp) の中央改札口の改札外コンコースには「グランドコンコース」という固有名称が付けられているといった例もあるため、JR東日本的に必ずしもコンコース=改札内のみを示すというわけではなさそうです。

東武鉄道

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地図上では改札内外が色分けされていますが、凡例には名称の記載がありません。

京成電鉄

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「改札内」「改札外」という呼称であり、「コンコース」の用語は使用されていません。

西武鉄道

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「改札内」「改札外」という呼称であり、「コンコース」の用語は使用されていません。

京王電鉄

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「改札内エリア」「改札外エリア」という呼称であり、「コンコース」の用語は使用されていません。

小田急電鉄

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「改札内エリア」「改札外エリア」という呼称であり、「コンコース」の用語は使用されていません。

東京急行電鉄

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改札内コンコースは「コンコースエリア」と書かれていますが、改札外コンコースは規模の大きな渋谷駅は「B1Fエリア」など階層情報しかなく、また規模の小さい田園調布駅は何の名称もありません。

京浜急行電鉄

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「改札内エリア」「改札外エリア」という呼称であり、「コンコース」の用語は使用されていません。

東京メトロ

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「改札内」「改札外」という呼称であり、「コンコース」の用語は使用されていません。

相模鉄道

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「改札内エリア」「ホーム / 改札外エリア」という呼称であり、「コンコース」の用語は使用されていません。


これらから分かることは、鉄道事業者自らが「コンコース」の用語を使っている例は少なく、またJR東日本と東急電鉄はいずれも改札内エリアのみを「コンコース」と呼称していることです。

あくまでWebページの事例なので、実際の駅にある案内看板ではまた違うのかもしれませんが、いくつかの文献に書かれている「一般的にコンコースは改札外を指す」という旨の記述は、少なくとも2018年時点の一般的な感覚とは異なるものではないかと思います。

脚注

  • 1.

    ここで言う「改集札柵より内」とは、前後の文章を読む限り「改札外」(改札口よりも駅出入口側)を指しているものと思われます。 ↩ 戻る