なまえをよんで

でも、君なら運命を変えられる。

避けようのない滅びも、嘆きも、すべて君が覆せばいい。そのための力が、君には備わってるんだから。

おはよう、パパ。

おはよう、まどか。

ママ、ママ。朝、朝。起きて、ママ、ママ。

ママ、起きたね。

いいじゃん、これならまどかの隠れファンもメロメロだ。

さあ、まどかも急がないと。

まどか、遅い。

ほう、まどかも仁美みたいなモテモテな美少女に変身したいと。そこでまずはリボンからイメチェンですかな。

可愛いやつめ、でも男子にモテようなんて許さんぞ。まどかはあたしの嫁になるのだ。

目玉焼きとは固焼きですか、それとも半熟ですか。はい、中沢君。

じゃ、暁美さんいらっしゃい。

えっと、暁美さん?

暁美さんって、前はどこの学校だったの?

ねえまどか、あの子知り合い? なんかさっき思いっきりガン飛ばされてなかった?

鹿目まどかさん、あなたがこのクラスの保健係よね。

あ……暁美さん?

ほむら……ちゃん。

鹿目まどか、あなたは自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を大切にしてる?

あなたは鹿目まどかのままでいればいい。今までどおり、これからも。

まどかさん、本当に暁美さんとは初対面ですの?

すげー、まどかまでキャラが立ちはじめたよ。

まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません。

まどか、帰りにCD屋寄ってもいい?

助けて、まどか。

どこにいるの。あなた、誰?

あなたなの。

ほむらちゃん!?

あなたには関係ない。

まどか、こっち。

さやかちゃん。

冗談だよね。あたし、悪い夢でも見てるんだよね。ねえ、まどか。

あ、あなたは?

魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる。

ありがとうマミ、助かったよ。

そうだよ。鹿目まどか、それと美樹さやか。

おはよう、まどか。

まどか、昨夜は帰りが遅かったんだって。

マミさん、すっごく美味しいです。

さやかちゃん、それ逆。

ねえ、ママ。

いっそ、ママが社長さんになっちゃったら。

ママ、目が怖いよ。

マミさんは、そんな怖いものと戦っているんですか。

おはよう、さやか。

どうかしましたか、さやかさん。

あぁ、今日の仁美ちゃん、何だかさやかちゃんみたいだよ。

つーかさ、あんた、のこのこ学校までついて来ちゃって良かったの?

言ったでしょ、昨日のあいつ、このクラスの転校生だって。あんた命狙われてるんじゃないの?

あの転校生も、えっとその、魔法少女なの? マミさんと同じ。

気にすんなまどか。あいつがなんかちょっかい出してきたら、あたしがぶっ飛ばしてやるからさ。マミさんだって付いてるんだし。

そうよ。美樹さんはともかくとして、私が付いているんだから大丈夫、安心して。

ねえ、まどか。願い事、なんか考えた?

ううん、さやかちゃんは?

さやかちゃん……。

で、どうするの。あなたも魔法少女になるつもり?

あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ。

ほ、ほむらちゃん、あ、あの、あなたはどんな願い事をして魔法少女になったの?

仁美、ごめん。今日はあたしらちょっと野暮用があって。

暁美さん♪

まどかは何か持って来た?

こりゃあ参った、あんたには負けるわ。

うん、やっぱりマミさんは正義の味方だ。それに引き換えあの転校生、ほんとにムカつくなぁ。

ねえ、マミさん。魔女の居そうな場所、せめて目星ぐらいは付けられないの?

あ、マミさんあれ。

マミさーん。

あと一度くらいは使えるはずよ。あなたにあげるわ、暁美ほむらさん。

あなたの獲物よ、あなただけの物にすればいい。

そう、それがあなたの答えね。

いつも本当にありがとう、さやかはレアなCDを見つける天才だね。

この人の演奏は本当にすごいんだ。さやかも聴いてみる?

いやぁ、やっぱマミさんってかっこいいねぇ。

んー、まどかは?

マミさんはどんな願い事をしたんですか?

ねえ、マミさん。願い事って自分のための事柄でなきゃだめなのかな。

美樹さん、あなたは彼に夢を叶えて欲しいの? それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?

マミさん……。

ごめんね、でも今のうちに言っておかないと。そこを履き違えたまま先に進んだら、あなたきっと後悔するから。

まどかは力そのものに憧れているのかい?

まどかが魔法少女になれば、マミよりずっと強くなれるよ。

まどかが産み出すかもしれないソウルジェムの大きさは、僕にも測定しきれない。これだけの資質を持つ子と出会ったのは初めてだ。

まどか、起きてるか?

分かってるの? あなたは無関係な一般人を危険に巻き込んでいる。

あなたは二人を魔法少女に誘導している。

ふぅん。そう、あなたも気づいてたのね、あの子の素質に。

あなたとは戦いたくないのだけれど。

まどか、マミさんの携帯聞いてる?

まずったな。まどか、先行ってマミさんを呼んで来て。あたしはこいつを見張ってる。

まどか、先に行ってくれ。さやかには僕が付いてる。

ありがとう、キュゥべえ。

怖いかい? さやか。

願い事さえ決めてくれれば、今この場で君を魔法少女にしてあげることもできるんだけど。

キュゥべえ、状況は?

さやかちゃん、大丈夫?

行きましょう、鹿目さん。

あの、マミさん。

はい。でも、あの……、もしかしたら、マミさんには考え方が甘いって怒られそうで。

でもマミさんと会って、誰かを助けるために戦ってるの、見せてもらって。

でも、それでも頑張ってるマミさんに、私、憧れてるんです。

マミさんはもう一人ぼっちなんかじゃないです。

マミさん……。

それで、みんなでパーティするの。私と鹿目さんの魔法少女コンビ結成記念よ。

マミ、グリーフシードが動き始めた。孵化が始まる、急いで。

二人とも、今すぐ僕と契約を。まどか、さやか。

まどか? おう、さっさと食べないと遅刻だぞ。

姉ちゃ、どったの。

さやかちゃん、昨日のこと。

さやかちゃん……。

まどかはさ、今でもまだ、魔法少女になりたいって思ってる?

ねえキュゥべえ、この町どうなっちゃうのかな。マミさんの代わりに、これから誰がみんなを魔女から守ってくれるんだろう。

ごめんね、キュゥべえ。

短い間だったけど、ありがとう。一緒にいて楽しかったよ、まどか。

あ、ほむら……ちゃん。

あなたは自分を責めすぎているわ、鹿目まどか。

あなたを非難できる者なんて、誰もいない。いたら、私が許さない。

あたしがもっと早くにほむらちゃんの言うこと聞いてたら。

それで巴マミの運命が変わったわけじゃないわ。でも、あなたの運命は変えられた。一人が救われただけでも、私は嬉しい。

ほ……ほむらちゃんはさ、何だかマミさんとは別の意味でベテランって感じだよね。

ほむらちゃんだって、ほむらちゃんのことだって、私は忘れないもん。昨日助けてくれたこと、絶対忘れたりしないもん。

ほむらちゃん?

あなたは優しすぎる。

さやかはさぁ……。

さやかは僕を苛めてるのかい?

だって恭介、音楽好きだから。

仁美ちゃーん、今日はお稽古事は?

仁美ちゃん、ね、仁美ちゃんってば。

あら、鹿目さん御機嫌よう。

仁美ちゃん……。

ああそうだ、鹿目さんもぜひご一緒に。ええ、そうですわ、それが素晴らしいですわ。

いいか、まどか。この手のものには扱いを間違えるととんでもないことになるものもある。あたしら家族全員あの世行きだ。絶対に間違えんなよ。

鹿目さん、あなたもすぐに分かりますから。

え、さやかちゃん!?

さやかちゃん……その格好。

あなたは……。

ふん、遅かったじゃない。転校生。

ふぅ……、まさか君が来るとはね。

どうするつもりだい、杏子。

大丈夫、君の祈りは間違いなく遂げられる。

さあ、受け取るといい。それが君の運命だ。

どうしたのよ仁美、寝不足?

さやかちゃんはさ、怖くはないの?

ん、そりゃあちょっとは怖いけど。まあ昨日のやつにはあっさり勝てたし。もしかしたら、まどかと仁美、友達二人も同時に亡くしてかもしれないって。そっちの方がよっぽど怖いよね。

さやかちゃん……。

だから引け目なんて感じなくていいんだよ。まどかは魔法少女にならずにすんだっていう、ただそれだけのことなんだから。

あ、恭介自身はどうなの。どっか身体におかしなとこ、ある?

さやかが言ったとおり、奇跡だよね、これ。

さやかには、ひどいこと言っちゃったよね。いくら気が滅入ってたとはいえ。

変なこと思い出さなくていいの。今の恭介は大喜びして当然なんだから、そんな顔しちゃだめだよ。

恭介、ちょっと外の空気吸いに行こう。

お前からは処分してくれと言われていたが、どうしても捨てられなかったんだ。私は……。

だってチョロそうじゃん。瞬殺っしょ、あんな奴。それとも何? 文句あるっての、あんた。

すべて君の思いどおりに行くとは限らないよ。この街にはもう一人、魔法少女がいるからね。

はあ、どういうことさ。そいつだってあんたと契約して魔法少女になったんでしょ?

私じゃもう、さやかちゃんの力にはなってあげられないから。だから、ほむらちゃんにお願いしたいの。さやかちゃんと仲良くしてあげて。マミさんの時みたいに喧嘩しないで。

あの子は契約すべきじゃなかった。確かに私のミスよ。あなただけでなく、彼女もきちんと監視しておくべきだった。

だから、ほむらちゃんも諦めちゃってるの? 自分のことも、他の子のことも全部。

まどか?

さやかちゃん、これから、その……。

さやかちゃん……。

あたしバカだから、一人だと無茶なデタラメやらかしかねないし、まどかもいるんだって肝に銘じてれば、それだけ慎重になれると思う。

キュゥべえ?

君にも君の考えがあるんだろう、まどか。さやかを守りたい君の気持ちは分かる。実際、君が隣に居てくれるだけで、最悪の事態に備えた切り札を一つだけ用意できるしね。

ただ、もし君が心を決める時が来たら、僕の準備はいつでも整ってるからね。

あんた、卵産む前の鶏シメてどうすんのさ。

な……、魔女に襲われる人達を、あんた見殺しにするって言うの?

あんたさぁ、なんか大元から勘違いしてんじゃない? 食物連鎖って知ってる? 学校で習ったよねぇ。

あんたは。

まさかとは思うけど、やれ人助けだの正義だの、その手のおちゃらけた冗談かますために、あいつと契約したわけじゃないよね? あんた。

さやかちゃん!

あんた×2

誰が、あんたなんかに。あんたみたいな奴がいるから、マミさんは。

さやかちゃん!

まどか、近づいたら危険だ。

お願いキュゥべえ、やめさせて。こんなのってないよ。

この戦いに割り込むには、同じ魔法少女でなきゃだめだ。でも君にならその資格がある。本当にそれを望むならね。

ほむら……ちゃん。

お前。

な、何しやがったてめぇ。

な、そうか、あんたが噂のイレギュラーってやつか。妙な技を使いやがる。

あ、さやかちゃん。

何なんだあんた。いったい誰の味方だ?

私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵。あなたはどっちなの、佐倉杏子。

いったい何度忠告させるの。どこまであなたは愚かなの。

あなたは関わり合いを持つべきじゃないと、もう散々言って聞かせたわよね。

ほむらちゃん……どうして。

さやか、君がグリーフシードを集められない限り、杏子と戦っても勝ち目はないと思っていい。

この街をあなたに預けたい。

魔法少女には、あなたみたいな子が相応しいわ。美樹さやかでは務まらない。

なるべく穏便にすませたい。あなたは手を出さないで。私が対処する。

まだ肝心なところを聞いてない。あんた何者だ?

それは秘密。ともかく、そいつさえ倒せたら、私はこの街を出て行く。あとはあなたの好きにすればいい。

ねぇ、さやかちゃん。このまま魔女退治を続けてたら、また昨日の子と会うんじゃないの?

喧嘩ねぇ。夕べのあれが、まどかにはただの喧嘩に見えたの?

さやかちゃんは、魔女をやっつけるために魔法少女になったんでしょ? あの子は魔女じゃない、同じ魔法少女なんだよ。

そんなわけない! まどかだって見てたでしょ? あの時あいつは、マミさんがやられるのを待ってから魔女を倒しに来た。あいつはグリーフシード欲しさにマミさんを見殺しにしたんだ。

夕べ逃した使い魔は小物だったけど、それでも人を殺すんだよ? 次にあいつが狙うのは、まどかのパパやママかもしれない。たっくんかもしれないんだよ? それでもまどかは平気なの? ほっとこうとする奴を許せるの?

さやかちゃん……。

キュゥべえも何とか言ってよ。

まどか、あんたはいい子に育った。嘘もつかないし、悪いこともしない。いつだって正しくあろうとしてがんばってる。子供としてはもう合格だ。

私も早くママとお酒飲んでみたいな。

お前は……。

知ってるよ、この家の坊やなんだろ? あんたがキュゥべえと契約した理由って。

お前なんかに何が分かる!

今すぐ乗り込んでいって、坊やの手も足も二度と使えないぐらいに潰してやりな。あんたなしでは何もできない体にしてやるんだよ。そうすれば今度こそ坊やはあんたのもんだ。身も心も全部ね。

絶対に、お前だけは絶対に許さない。今度こそ必ず。

まどか、まどか。急いで、さやかが危ない。付いてきて。

待って、さやかちゃん。

まどか。邪魔しないで、そもそもまどかは関係ないんだから。

じゃあ、あなたの仲間はどうなのかしら。

あんたのやり方じゃ手ぬるすぎるんだよ。どの道向こうはやる気だぜ。

さやかちゃん、ごめん。

まどか、あんたなんてこと。

だって、こうしないと。え……さやかちゃん?

今のはマズかったよ、まどか。

さやかちゃん、ね、さやかちゃん。起きて、ねぇ、ねぇちょっと、どうしたの、ねぇ。嫌だよこんなの、さやかちゃん。

何言ってるのよキュゥべえ。助けてよ、さやかちゃんを死なせないで。

はぁ。まどか、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻なんだって。

てめぇは、何てことを。ふざけんじゃねぇ、それじゃあたしたち、ゾンビにされたようなもんじゃないか。

君は戦いというものを甘く考えすぎだよ。

君が杏子との戦いで最後まで立っていられたのは、強すぎる苦痛がセーブされていたからさ。君の意識が肉体と直結していないからこそ可能なことだ。おかげで君は、あの戦闘を生き延びることができた。

戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう。それは間違いなく実現したじゃないか。

ほむらちゃんは、知ってたの?

あなたには彼女を救う手立てなんてない。引け目を感じたくないからって、借りを返そうだなんて、そんな出すぎた考えは捨てなさい。

ほむらちゃん、どうしていつも冷たいの。

あんたさぁ、やっぱり後悔してるの? こんな体にされちゃったこと。

あんたは自業自得なだけでしょ。

あんたも開き直って好き勝手にやればいい。自業自得の人生をさ。

それって変じゃない? あんたは自分のことだけ考えて生きてるはずなのに、あたしの心配なんかしてくれるわけ。

あんたもあたしと同じ間違いから始まった。これ以上後悔するような生き方を続けるべきじゃない。あんたはもう対価としては高すぎるもんを支払っちまってるんだ。だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ。

あんたみたいに?

そうさ。あたしはそれをわきまえてるが、あんたは今も間違い続けてる。見てられないんだよそいつが。

あんたのこといろいろと誤解してた。そのことはごめん、謝るよ。

なんであんたは……。

それからさあんた。そのリンゴはどうやって手に入れたの。お店で払ったお金はどうしたの。

あたしはあたしのやり方で戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、前みたいに殺しに来ればいい。あたしは負けないし、もう恨んだりもしないよ。

さやかちゃん、おはよう。

おはようございます、さやかさん。

さやかちゃん……。

上条、もう怪我はいいのかよ。

さやかちゃんも行ってきなよ。まだ声かけてないんでしょ。

私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです。

あはは……まさか仁美がねえ。あなーんだ、恭介のやつ隅に置けないなあ。

さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね。

私、決めたんですの。もう自分に嘘は付かないって。あなたはどうですか。さやかさん、あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか。

あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの。

上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ。だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです。

仁美……。

あたし、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか。

まどか……。

さやかちゃんに一人ぼっちになって欲しくないの、だから。

あんた、なんで、なんでそんなに優しいかな。あたしにはそんな価値なんてないのに。

さやかちゃん……。

そんな理由であなたが獲物を譲るなんてね。

さやかちゃん。

さやかちゃん。

あんた、まさか。

あんたに借りは作らないから。これでチャラ、いいわね。

さ、帰ろう、まどか。

さやかちゃん。

さやかちゃん……あんな戦い方、ないよ。

あんなやり方で戦ってたら、勝てたとしてもさやかちゃんのためにならないよ。

さやかちゃん。

でも私は、どうすればさやかちゃんが幸せになれるかって。

だったらあんたが戦ってよ。

キュゥべえから聞いたわよ。あんた誰よりも才能あるんでしょ。あたしみたいな苦労しなくても簡単に魔女をやっつけられるんでしょ。

何でもできるくせに、何もしないあんたの代わりに、あたしがこんな目に遭ってるの。それを棚に上げて、知ったようなこと言わないで。

さやかちゃん。

それはぜひ僕からもお願いしたいね、暁美ほむら。

どのツラ下げて出てきやがったてめぇ。

君ならすでに知っているんじゃないかな、暁美ほむら。

やっぱりね。どこでその知識を手に入れたのか、僕はとても興味深い。君は……。

でもさ、志筑さんって帰る方角はこっちなんだっけ。今まで帰り道に見かけたことってないような。

上条くんにお話したいことがありますの。

あなた、死ぬわよ。

ねえどうして。あなたを助けたいだけなの。どうして信じてくれないの。

どうしてかな。ただ何となく分かっちゃうんだよね。あんたが嘘つきだってこと。あんた、何もかも諦めた目をしてる。いつも空っぽの言葉を喋ってる。今だってそう。あたしのためとか言いながら、ほんとはぜんぜん別のこと考えてるんでしょ。ごまかし切れるもんじゃないよ、そういうの。

そうやって、あなたはますますまどかを苦しめるのよ。

あなたって鋭いわ。ええ、図星よ。私はあなたを助けたい訳じゃない。あなたが破滅していく姿を、まどかに見せたくないだけ。ここで私を拒むなら、どうせあなたは死ぬしかない。これ以上まどかを悲しませるくらいなら、いっそ私がこの手で今すぐ殺してあげるわ、美樹さやか。

正気かてめぇは。あいつを助けるんじゃなかったのかよ。

捨てる時がさぁ、ほんとウザいっすよね。その辺ショウさん上手いから羨ましいっすよ。俺も見習わないと……お?

お嬢ちゃん中学生? 夜遊びは良くないぞ。

その人、あんたのことが大事で、喜ばせたくて頑張ってたんでしょ。あんたにもそれが分かってたんでしょ。なのに犬と同じなの。ありがとって言わないの。役に立たなきゃ捨てちゃうの。

ねえ、この世界って守る価値あるの。あたし何のために戦ってたの、教えてよ。今すぐあんたが教えてよ。でないとあたし……。

君も僕のことを恨んでいるのかな。

あなたを恨んだら、さやかちゃんを元に戻してくれる?

凄いなんていうのは控えめな表現だ。君は途方もない魔法少女になるよ。おそらくこの世界で最強の。

さやかは彼女の願いを遂げた。その点についてまどかは何の関係もない。

僕にも分からない。はっきり言って君が秘めている潜在能力は、理論的にはあり得ない規模のものだ。誰かに説明して欲しいのは、僕だって一緒さ。

君が力を解放すれば、奇跡を起こすどころか宇宙の法則をねじ曲げることだって可能だろう。なぜ君一人だけが、それほどの素質を備えているのか。理由はいまだに分からない。

現実はずいぶんと違ったね。まどか、君は望むなら、万能の神にだってなれるかもしれないよ。

私なら、キュゥべえにできないことでも、私ならできるのかな。

私があなたと契約したら、さやかちゃんの体を元に戻せる?

その程度、きっと造作もないだろうね。その願いは君にとって、魂を差し出すに足るものかい。

あなたは、なんであなたは、いつだって、そうやって自分を犠牲にして。

役に立たないとか、意味がないとか、勝手に自分を祖末にしないで。あなたを大切に思う人のことも考えて。いい加減にしてよ! あなたを失えば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気付かないの。あなたを守ろうとしてた人はどうなるの。

ほむらちゃん……。私たちはどこかで、どこかで会ったことあるの? 私と。

無駄なことだって知ってるくせに。懲りないんだなあ、君も。

君に殺されたのはこれで二度目だけれど、おかげで攻撃の特性も見えてきた。時間操作の魔術だろう、さっきのは。

やっぱりね。何となく察しはついてたけれど、君はこの時間軸の人間じゃないね。

お前の正体も企みも、私はすべて知ってるわ。

ええ、絶対にお前の思いどおりにはさせない。キュゥべえ……いいえ、インキュベーター。

やっと見つけた。あんたさ、いつまで強情張ってるわけ。

希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったかあんた言ってたよね。今ならそれ、よく分かるよ。

さやかっ!

何なんだよ、てめぇ一体何なんだ。さやかに何をしやがった。

私から手を離したら、あなたの時間も止まってしまう。気をつけて。

かつて美樹さやかだった者よ。あなたも、見届けたんでしょう。

今のあなたは足手纏いにしかならない。いったん退くわ。

てめぇは、何様のつもりだ。事情通ですって自慢したいのか。

今度こそ理解できたわね。あなたが憧れていたものの正体が、どういうものか。

てめぇそれでも人間か。

もちろん違うわ。あなたもね。

じゃあ、あなたはみんなを魔女にするために、魔法少女に?

まどか、君はエントロピーっていう言葉を知ってるかい?

あなたは、一体?

あなたの言ってること、ついていけない。ぜんぜん納得できない。

そんな風に思ってるなら、やっぱりあなた、あたしたちの敵なんだね。

まどか、いつか君は最高の魔法少女になり、そして最悪の魔女になるだろう。そのとき僕らは、かつてないほど大量のエネルギーを手に入れるはずだ。この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。待ってるからね。

そいつは、お前が知らないこともあるって意味か。

いらねぇよ。誰がてめぇの手助けなんか、借りるもんか。

まどかさん、今朝は顔色が優れませんわ。大丈夫ですの?

仁美ちゃん、あのね……。

まどかさん?

仁美ちゃん、ごめん。今日は私も学校お休みするね。

え? そんな、まどかさん、ちょっと。

あいつは魔女になっちまったけど、友達の声ぐらいは覚えてるかもしれない。呼びかけたら、人間だった頃の記憶を取り戻すかもしれない。それができるとしたら、たぶんあんただ。

ほんと変な奴だな、あんた。ふふっ。

ねぇ、杏子ちゃん。

なんであんたが魔法少女になるわけさ。

あんただっていつかは、否が応でも命懸けで戦わなきゃならない時が来るかもしれない。その時になって考えればいいんだよ。

杏子ちゃんはどうして……あっ。

さやかちゃん、私だよ、まどかだよ。ね、聞こえる? 私の声が分かる?

さやかちゃん、やめて、お願い、思い出して。こんなこと、さやかちゃんだって嫌だったはずだよ。さやかちゃん正義の味方になるんでしょ? ねぇお願い、元のさやかちゃんに戻って。

聞き分けがねえにも程があるぜ、さやか。

杏子ちゃん!?

大丈夫、この程度屁でもねえ。あんたは呼び続けろ、さやかを。

やめて、もうやめて、さやかちゃん、私たちに気付いて!

さやかちゃん……お願いだから。

さやかっ!

あんた、信じてるって言ってたじゃないか。この力で人を幸せにできるって。

杏子!?

あなた……。

心配すんなよさやか。一人ぼっちは寂しいもんな。いいよ、一緒にいてやるよ、さやか。

これでもうワルプルギスの夜に立ち向かえる魔法少女は、君だけしか居なくなった。

暁美さんって、前はどこの学校だったの?

暁美さん。保健室行かなきゃいけないんでしょ。場所分かる?

暁美さん、また後でね。

そんなのもったいないよ。せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんも格好良くなっちゃえばいいんだよ。

うん、君は休学してたんだっけな。友達からノートを借りておくように。

もう大丈夫だよ、ほむらちゃん。

鹿目さん、いつもあんなのと戦ってるんですか?

でも今日の戦い方、以前よりずっと上手かったわよ、鹿目さん。

鹿目さんにはワルプルギスの夜が来る前に、がんばって一人前になっておいてもらわないとね。

無理よ、一人だけであんなのに勝てっこない。鹿目さんまで死んじゃうよ。

ねぇ、逃げようよ。だって仕方ないよ。誰も鹿目さんを恨んだりしないよ。

ほむらちゃん、私ね、あなたと友達になれて嬉しかった。あなたが魔女に襲われた時、間に合って。今でもそれが自慢なの。

鹿目さん……。

さよなら、ほむらちゃん。元気でね。

いや、行かないで。鹿目さぁん!

その言葉は本当かい? 暁美ほむら、君のその祈りのために魂を賭けられるかい。戦いの定めを受け入れてまで、叶えたい望みがあるなら、僕が力になってあげられるよ。

あなたと契約すれば、どんな願いも叶えられるの?

そうとも、君にはその資格がありそうだ。教えてごらん、君はどんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?

契約は成立だ。君の祈りはエントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。その新しい力を!

鹿目さん、私も魔法少女になったんだよ。これから一緒に頑張ろうね。

どう思う、マミさん。

マミさん、今だよ。

暁美さん、お願い。

すごい、すごいよほむらちゃん。

どうしたの? ねぇ、鹿目さん、しっかりして。

まさかあんた、ほんとはあの杏子とかいうやつとグルなんじゃないでしょうね。

さやかちゃん、それこそ仲間割れだよ。

暁美さんには、爆弾以外の武器ってないのかしら。

てめぇ、一体なんなんだ。さやかに何しやがった。

さやかちゃん、やめて、お願い、思い出して。こんなこと、さやかちゃんだって嫌だったはずだよ。

巴さん!?

ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない。あなたも、私も!

私にはできなくて、ほむらちゃんにできること、お願いしたいから。

ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね。こんな終わり方にならないように歴史を変えられるって、言ってたよね。

約束するわ、絶対にあなたを救ってみせる。何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる。

まどか!

ほむらちゃん、やっと名前で呼んでくれたね。嬉しい……な。

まどか。あなたに奇跡を約束して、取り入ろうとする者が現れても、決して言いなりになってはだめ。

諦めたらそれまでだ。でも、君なら運命を変えられる。避けようのない滅びも、嘆きも、すべて君が覆せばいい。そのための力が君には備わっているんだから。

暁美ほむら……君は。

過去の可能性を切り替えることで幾多の並行世界を横断し、君が望む結末を求めて、この1か月間を繰り返してきたんだね。

君の存在が、ひとつの疑問に答えを出してくれた。なぜ鹿目まどかが、魔法少女としてあれほど破格の素質を備えていたのか。今なら納得いく仮説が立てられる。

だが……ねえ、ほむら。ひょっとしてまどかは、君が同じ時間を繰り返すごとに、強力な魔法少女になっていったんじゃないのかい。

やっぱりね、原因は君にあったんだ。正しくは君の魔法の副作用と言うべきかな。

君が時間を巻き戻してきた理由はただひとつ、鹿目まどかの安否だ。

同じ理由と目的で何度も時間を遡るうちに、君はいくつもの並行世界を螺旋状に束ねてしまったんだろう。鹿目まどかの存在を中心軸にしてね。

君が繰り返してきた時間、その中で循環した因果のすべてが、巡り巡って鹿目まどかに繋がってしまったんだ。あらゆる出来事の元凶としてね。

お手柄だよ、ほむら。君がまどかを最強の魔女に育ててくれたんだ。

なぁ、まどか。

どうでもいいって言うの。みんなあなたのせいで死んだようなものなのに。

たとえば君は、家畜に対して引け目を感じたりするかい? 彼らがどういうプロセスで君たちの食卓に並ぶのか。

その反応は理不尽だ。この光景を残酷と思うなら、君には本質がまったく見えていない。

ずっとあの子たちを見守りながら、あなたは何も感じなかったの。みんながどんなに辛かったか、分かってあげようとしなかったの。

詢子が弱音を吐くなんてね。

そういうところで要領悪いの、相変わらずよね、詢子は。

これがワルプルギスの夜? 杏子ちゃんが言ってた、ひとりで倒せないほど強い魔女をやっつけるために、ほむらちゃんとふたりで戦うんだって。ずっとここで準備してたのね。

杏子ちゃんも死んじゃって、戦える魔法少女はもうほむらちゃんだけしか残ってない。だったら……。

なんでだろ、私ほむらちゃんのこと信じたいのに。嘘つきだなんて思いたくないのに。ぜんぜん大丈夫だって気持ちになれない。ほむらちゃんの言ってることが本当だって思えない。

ほむらちゃん?

だって、私は。私はまどかとは、違う時間を生きてるんだもの!

私ね、未来から来たんだよ。何度も何度もまどかと出会って、それと同じ回数だけあなたが死ぬところを見てきたの。どうすればあなたが助かるのか、どうすれば運命を変えられるのか、その答えだけを探して、何度も始めからやり直して。

ごめんね、わけ分かんないよね、気持ち悪いよね。まどかにとっての私は、出会ってからまだ1か月も経ってない転校生でしかないものね。

だけど私は、私にとってのあなたは……。

繰り返せば繰り返すほど、あなたと私が過ごした時間はずれていく。気持ちもずれて、言葉も通じなくなっていく。たぶん私は、もうとっくに迷子になっちゃってたんだと思う。

ほむら……ちゃん。

あなたを救う。それが私の最初の気持ち。今となっては、たったひとつだけ最後に残った道しるべ。

分からなくてもいい、何も伝わらなくてもいい。それでもどうか、お願いだから、あなたを私に守らせて。

ん? どうしたまどか。

それを否定したとして、君は僕の言葉を信じるかい?

何もかもが無駄だったと、決してまどかの運命を変えられないと確信したその瞬間に、暁美ほむらは絶望に負けて、グリーフシードへと変わるだろう。

そうさ、過去のすべての魔法少女たちと同じだよ。まどか、君だって一緒に見ただろう?

ママ!?

てめぇひとりのための命じゃねぇんだ。あのなあ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ……。

私だってママのことパパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの、分かる。

だめ。ママはパパやタツヤの傍にいて、二人を安心させてあげて。

ママはさ、私がいい子に育ったって言ってくれたよね。嘘もつかない、悪いこともしないって。

ありがとう、ママ。

もういい、もういいんだよ、ほむらちゃん。

まどか……。

まどか、まさか。

ほむらちゃん、ごめんね。

ほむらちゃん、ごめんね。あたし魔法少女になる。

まどか、そんな。

ごめん、ほんとにごめん。これまでずっと、ずっとずっと、ほむらちゃんに守られて望まれてきたから、今の私があるんだと思う。ほんとにごめん。

絶対に、今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから。

まどか……。

数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みだろうと叶えられるだろう。

さあ鹿目まどか、その魂を代価にして君は何を願う?

はっ、君は本当に神になるつもりかい?

さあ、叶えてよ、インキュベーター!

鹿目さん、それがどんなに恐ろしい願いか分かっているの?

未来と過去とすべての時間で、あなたは永遠に戦い続けることになるのよ。

そうなればきっと、あなたはあなたという個体を保てなくなる。

うん、ありがとう杏子ちゃん。

あなたは希望を叶えるんじゃない、あなた自身が希望になるのよ。私たちすべての希望に。

もういいの。もう、いいんだよ。もう誰も恨まなくていいの。誰も呪わなくていいんだよ。そんな姿になる前に、あなたは私が受け止めてあげるから。

そうか、君もまた時間を越える魔法の使い手だったね。じゃあ一緒に見届けようか、鹿目まどかという存在の結末を。

まどか、これで君の人生は始まりも終わりもなくなった。

この世界に生きた証も、その記憶も、もうどこにも残されていない。君という存在は、ひとつ上の領域にシフトしてただの概念に成り果ててしまった。もう誰も君を認識できないし、君もまた、誰にも干渉できない。君はこの宇宙の一員ではなくなった。

ううん、違うよほむらちゃん。

まどか……。

だからね、全部分かったよ。いくつもの時間で、ほむらちゃんが私のために頑張ってくれたこと、何もかも。何度も泣いて、傷だらけになりながら、それでも私のために……。

今の私になったから、本当のあなたを知ることができた。私には、こんなにも大切な友達がいてくれたんだって。

ほむらちゃん、ありがとう。あなたは私の、最高の友達だったんだね。

だからって、あなたはこのまま帰る場所もなくなって、大好きな人たちとも離れ離れになって、こんな場所に一人ぼっちで永遠に取り残されるって言うの?

これからの私はね、いつでもどこにでもいるの。だから見えなくても聞こえなくても、私はほむらちゃんの傍にいるよ。

まどかはそれでもいいの? 私はあなたを忘れちゃうのに。まどかのこと、もう二度と感じ取ることさえできなくなっちゃうのに。

ううん、諦めるのはまだ早いよ。ほむらちゃんはこんな場所まで付いて来てくれたんだもの。だから元の世界に戻っても、もしかしたら私のこと忘れずにいてくれるかも。

まどか……。

まどか、行かないで。

いつかまた、もう一度ほむらちゃんとも会えるから。それまでは、ほんのちょっとだけお別れだね。

まどかぁっ!

さやかちゃんを救うには、何もかもなかったことにするしかなくて。

でも、それはたぶん、さやかちゃんが望む形じゃないんだろうなって。

さやかちゃんが祈ったことも、そのために頑張ってきたことも、とっても大切で、絶対無意味じゃなかったと思うの。だから……。

……暁美さん? “まどか”って。

こら、だめじゃないかタツヤ。女の人の髪を引っ張るのだめ。

“まどか”ってさ、あなたも知ってるの? アニメか何かのキャラとか?

ふうん、なるほどね。確かに君の話は、一つの仮説としては成り立つね。

だとしても証明しようがないよ。君が言うように、宇宙のルールが書き換えられてしまったのだとすれば、今の僕らにそれを確かめる手段なんてない訳だし。君だけがその記憶を持ち越しているのだとしても、それは君の頭の中にしかない夢物語と区別がつかない。

まあ確かに、浄化しきれなくなったソウルジェムがなぜ消滅してしまうのか、その原理は僕たちでも解明できてない。その点、君の話にあった魔女の概念はなかなか興味深くはある。人間の感情エネルギーを収集する方法としては、確かに魅力的だ。

君が言う魔女のいた世界では、今僕らが戦っているような魔獣なんて存在しなかったんだろう? 呪いを集める方法としてはよほど手っ取り早いじゃないか。

おはよう、キュゥべえ。

おはよう、パパ。

おはよう、まどか。

ママ、ママ。朝、朝。ママ、ママ。