東急クハ9010に搭載されていたSIM式空気圧縮機が消滅

東急9000系はHS-20形(w0s.jp) 空気圧縮機をクハ9000形とクハ9100形に搭載していますが、そのうちクハ9010のみは双固定子誘導電動機で動作するタイプを搭載していました。

  1. 東急9000系の空気圧縮機
  2. 東武鉄道にはSIMタイプが大量に存在する

東急9000系の空気圧縮機

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1986(昭和61)年に登場した9000系は東急の新製車で初めてVVVFインバータ制御による交流モータ駆動が採用されましたが、主電動機だけでなく空気圧縮機の電動機も三相かご形誘導電動機となり、SIVから出力された三相交流が直接供給される方式となっています。

電動機は神鋼電機(現在のシンフォニアテクノロジー)製のA1544A形で、主要諸元は以下のとおりです。

定格出力
15kW
極数
4P
定格電圧
440V
定格周波数
59.5Hz
定格電流
26A
定格回転速度
1695rpm

さらに1992(平成4)年には始動電流の抑制を図る目的で双固定子誘導電動機(SIM)を搭載したCPがクハ9010に試験搭載され、現車試験にて始動電流が約12%低下(従来の誘導電動機との比較)、始動時における電源電圧の降下率が従来タイプの約20%に対して約9%という改善が確認されたようです[1]

東急クハ9010のSIM式CP(2013年6月撮影)

しかしながら、直後に東急電鉄では旅客車両の新製が6年間ストップしたこともあってか、この電動機(TFC221形)が本格採用されることはありませんでした。

  • 1993年に2000系2〜3次車(2003F)が新製された時点では、まだ耐久試験中だったでしょうし。

一方で試験結果に大きな問題がなかったからか、クハ9010のSIM式CPはそのまま継続使用されていたのですが、先日ついに従来タイプに交換されてしまいました。今年5月に大井町線に転籍した当初はSIM式のままであり、安堵していたのもつかの間の出来事でした。

なお、SIMとは「SATAKE Induction Motor」の頭文字をとったもので、"SATAKE"とは開発元である株式会社サタケのことらしいです。東北新幹線「はやぶさ」などにサタケのモータ採用(www.satake-japan.co.jp) のニュースリリースには、開発の経緯や当初の苦労話も掲載されており読み物としても興味深いです。

東武鉄道にはSIMタイプが大量に存在する

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他事業者の事情には疎いのですが、少なくとも東武鉄道ではいくつかの車種でSIM電動機の空気圧縮機が本格採用されており、一部は東急線にも乗り入れて来ます。

私が調査した範囲では以下の車種で確認できました。

  • 200系・250系(1991年登場): 後期車のみ(207編成以降?)、詳細は調査中
  • 9050系(1994年登場)
  • 20070系(1996年登場)
  • 30000系(1997年登場): 後期車は違うタイプを搭載? また東上線転籍車は未確認
SIM式CPを搭載する東武モハ32609の形式写真
東武モハ32609のSIM式CP
東武モハ9951のSIM式CP

脚注

  • 1.

    電気車の科学No.546(1993年10月号)「双固定子誘導電動機(SIMモータ)式空気圧縮機の実用化について」より ↩ 戻る