えちぜん鉄道MC1101形車両の主制御器の出自

2009年6月更新

東京急行電鉄・旧3000系グループの電動車に搭載されていた主制御器は、いくつかの変遷を経て末期は日立製のカム軸式MMC-H-10系が主流になっていました。現在、残された旧3000系は、保存車を含めても両手で数えられるばかりとなり、走行機器付きともなれば絶滅寸前の状況です。

そんな中、福井県のえちぜん鉄道に在籍するMC1101形車両の主制御器は、元をたどれば東急電鉄で使われていた可能性が考えられます。

えちぜん鉄道MC1101形

えちぜん鉄道で活躍するMC1102号車。元々は吊り掛け駆動式だったようですが、京福電気鉄道時代に在籍していたモハ1101も含め、1998年にカルダン駆動化が行われており、同時に主制御器はMMC-H-10K形となっています。

新性能化に関する話は、鉄道ピクトリアルの特集「北陸地方のローカル私鉄」が詳しく、京福電気鉄道(当時)の記事には次のように書かれています。

車両近代化の一環として,1500V昇圧によって廃車となった豊橋鉄道モハ1900形から発生したDT-21中空カルダン式台車と,クーラー3基(合計10,500Kcal)を利用して新性能化が計画され,2000年(平成12年)4月11日深夜に川崎重工へ陸送.改造工事終了後の同年7月2日早朝に福井へ帰着した.

※管理者注:改造時期が2000年と書かれていますが、1998年の誤記でしょう。

【現有私鉄概説】京福電気鉄道福井鉄道部(岡本英志)
鉄道ピクトリアルNo.701・2001年5月臨時増刊号

この記事では、主制御器に関してはなぜか触れられていませんが、同じく鉄道ピクトリアルの「新車年鑑1999年版」には次の記述があります。

新製・廃車はないが,改造ではモハ1101形1101・1102の冷房化,高性能化が施工され1998年7月17日に竣功している.これに伴い台車は日車D-18から川車DT-21に,電動機はTDK-528/9-HMから東洋MT-46Aに,制御器は東洋ES-519Bから日立MMC-H-10Kに変更された.

各社別車両情勢(藤井信夫・大幡哲海・岸上明彦)
鉄道ピクトリアルNo.676・1999年10月臨時増刊号

次に、その豊橋鉄道旧1900形の登場時の紹介記事を見てみましょう。

この車は,本年3月に新車5300系に台車・モータを譲って廃車になった名鉄モ5205・5206の車体を購入し,自社高師工場で国鉄101系の台車・モータ(DT21・MT42),名鉄3880系〔元東急3600系〕の制御器・パンタグラフ(MMC-H-10・PT42)と南海の600V時代のMG,他予備品の床下機器に三菱電機製の架線電源(DC600V)を,三相交流(AC200V)に変えるインバータとクーラを組み合わせた,DA空調システムにより,冷房車化したものである.

※管理者注:名鉄3880系の前身が東急3600系と書かれていますが、東急3700形の誤記でしょう。

豊橋鉄道に冷房車登場(神沢順)
鉄道ファンNo.307・1986年11月号

これらの情報を統合すると、えちぜん鉄道MC1101形の主制御器は、東京急行電鉄デハ3700形→名古屋鉄道3880系→豊橋鉄道1900系→京福電気鉄道モハ1101形と渡り歩いてきたものであると思われます。ところが…。

MMC-H-10形主制御器のバリエーション

東急デハ3700形の主制御器に関して、こんな記述があります。

主制御器はMMC-H-10G化,電動発電機もCLG-107形となって活躍したが,昭50~55に全車両を名古屋鉄道へ譲渡した.

私鉄車両めぐり〔127〕(荻原俊夫)
鉄道ピクトリアルNo.442・1985年1月臨時増刊号

つまりデハ3700形は、少なくとも東急末期にはMMC-H-10G形を搭載していたようです。しかし、えち鉄MC1101形の搭載機器はK形です。両者は製造時期も外観も異なるので、まず見間違えることはないでしょう。先にG形とK形それぞれの写真を掲載しているので、比較していただければ構造や外観の違いが分かると思います。

さて、豊橋鉄道1900系第1編成(モ1951-モ1901)登場時の鉄道ピクトリアル「新車年鑑1987年版」には次の記述があります。

制御装置は従来の釣掛車との総括制御を考慮し,名鉄3880系(元東急3700系)に使用されていた電動カム軸式MMC-H-10Gが採用されている。

豊橋鉄道1900系(鉄道ピクトリアル編集部)
鉄道ピクトリアルNo.480・1987年5月臨時増刊号

豊橋鉄道1900系は6編成まで増備されましたが、残念ながら第2編成以降の主制御器に関する記述は見つけられませんでした。ただし、第3編成から台車機器がJR111系のものになった鉄道ピクトリアルNo.512・1989年5月臨時増刊号より)など、すべての車両が同型機器を搭載していたわけではないようです。よって、次のような可能性が考えられます。

  • 豊橋鉄道1900系の第2編成以降にMMC-H-10K形を搭載した車両が存在し、その機器が京福電気鉄道に譲渡された。
  • 豊橋鉄道1900系の中には、在籍中に主制御器をK形に更新された車両が存在し、その機器が京福電気鉄道に譲渡された。

東急デハ3500形の主制御器

ここで、えちぜん鉄道MC1102号車の主制御器をもう一度よく見てみると、正面蓋にうっすらと「3509」という車番らしき数字が書かれているのが分かります。豊橋鉄道とえちぜん鉄道(京福電気鉄道)には、3500番台の車両は存在しなません。名古屋鉄道にはモ3500形という車両が居たようですが、主制御器はMMC系ではなく、そもそもモ3509は東急譲渡車が入線するずっと前に制御車化されており、可能性はないでしょう。すると、やはり東急デハ3509のものでしょうか。

1939年にモハ1000形として登場した東急デハ3500形の主制御器は、当初はMC-200形・MMC-H-200形でしたが、後にMMC-H-10K形に更新されています。

1968・69(昭43・44)年にATS装置取り付け、42芯連結栓化、1969年から車軸を平軸受からコロ軸受に改造、主制御器を新しいMMC-H-10K形に交換、1972(昭47)年からMGを撤去し、中間に組み込まれた付随車の補助電源装置から給電する方式とした。

東急電車形式集.2(高間恒雄)

この文献より、主制御器交換は1969年に始まったことが分かります。実際にはデハ3500形全車両の交換が完了するまで数年を要したようですが、鉄道ピクトリアルNo.269(1972年9月号)に掲載されている「東京急行電鉄旅客車一覧表」によると、1972年5月31日時点で22両中デハ3509を含む14両が更新済みとあります。

今回は、残念ながら機器の銘板まで調査する時間がありませんでしたが、もしこの個体の製造時期が1969年から1972年の間であるならば、辻褄が合うことになります。ここからは完全な想像となるのですが、デハ3509は1989年3月に廃車となった後、主制御器などの機器を豊橋鉄道へ譲渡、同年7月に竣功したモ1906、モ1956のどちらかに装備され、廃車後に京福電気鉄道へ再譲渡したとは考えられないでしょうか。もしそうならば、熊本電気鉄道に残るD-2-N形空気圧縮機とともに「今なお現役」な旧性能車の忘れ形見ということになり、貴重な存在といえるでしょう。

少々興奮し先走ってしまいましたが、いずれにしても機器銘板等による製造時期の判別、予備品の有無などさらに調べなければならないでしょう。分かり次第、順次追記してゆくつもりですが、何か情報をお持ちの方はブクメやTwitter等でご一報をお願いしたいと思います。